俺の初恋の相手。それは文芸部のアキハ先輩。
彼女に認められる小説を書くことこそ、俺の青春だった。

しかし社会人となった今では、そんな夢や憧れはすっかり消え失せた。
うだつの上がらないフリーターとして無意味に日々を浪費し続けている。

そんな俺の元に、ある日、アキハ先輩から久方ぶりのメールが送られてきた。
近況を聞かれ、俺は小説家になる夢なんてとうに諦めてしまった事を自虐的に伝えた。
すると、彼女の返信はこう書かれていた。

「私も、ダメになっちゃった」

その日の晩、待ち合わせ場所に現れたのは、容姿がガラリと変わったアキハ先輩だった。
かつては読書姿が似合う黒髪ロングの美女だったが、まるでコンカフェ嬢のような尖ったファッションの女性になっている。口を開くまで、同一人物であると分からなかったほどだ。

「実は……しばらく泊めてほしくて。他に頼れる人が誰もいないの」

深刻な顔つきで頼み込まれ、俺は彼女を心配しつつも憧れの先輩が自分を頼ってくれる状況に嬉しさを感じながら承諾する。
初恋の相手と一つ屋根の下で暮らす。断りたい理由など無い。

ところが。間もなく俺は、今のアキハ先輩を蝕む心の闇に直面することになった。

「お願い!!私を見捨てないで!!私をひとりにしないで……!!」

深夜に突如、アキハ先輩は狂ったように泣き叫び始めた。
その場は何とか抑え込むことが出来たが、落ち着きを取り戻した彼女は、このような発作が不定期に起きて心の制御ができなくなることがあると告白する。

「キミにはそんな姿、見せたくなかった。こんなにキミに迷惑かけちゃうなら、やっぱり私……」
「俺はアキハさんがいるだけで幸せです。夜が辛いなら、俺をサンドバッグにしたって良いですから」

必ず俺が、アキハ先輩を守る。
彼女が心の病を克服できるように全力を尽くす。俺は固く決意した。

そして彼女の心の病を抱えた原因を探るため、俺は卒業後の彼女が歩んだ足跡を辿っていく。
再び、灰色の雨雲が空を覆っていくのを見やりながら…。

「アキハさん。また俺と、小説を書きませんか?」
「……ありがとう。でも、もういいの」